これまで、申請者等は新生ラットの脊髄摘出標本において、セロトニン(5-HT)の灌流投与によって、運動ニューロン群に歩行様のバーストが誘発することを明らかにした。本研究では、運動ニューロン群にリズミックなバースト発射を誘発する脊髄内神経回路網が胎生期にどのように形成されるのかを5-HTによって誘発されるリズムを対象にして解析した。 胎生14.5-21.5日のラットの脊髄摘出標本を作成し、クレブス液灌流下で腰髄前根より運動ニューロン群の神経活動を記録した。5-HTの投与により誘発されるリズミックなバースト発射が、胎生14.5日以降の標本で観察された。胎生14.5日の標本では、脊髄内のおもな興奮性伝違を担うグルタミン酸受容体の拮抗薬であるキヌレン酸の投与によって、5-HT誘発リズミックなバースト発射はの標本では影響を受けないが、成熟動物の脊髄内において抑制性伝達物質として作用するグリシンの受容体の拮抗薬であるストリキニーネの投与によって、このリズムは完全に消失した。一方、胎生18.5日以降の標本ではキヌレン酸の投与によってリズムは消失するが、ストリキニーネの投与によって、このリズムの大きさや同期性はむしろ増強した。GABAA受容体の拮抗薬であるビククリンの投与によって、5-HTによって誘発されるリズミックなバーストは胎生14.5日の標本で影響を受けなかった。これらの結果から、5-HTによって誘発される初期のリズムの形成には主にグリシン受容体を介したシナプス入力が重要な役割を果たしていることが示唆された。これらの薬理学的な性質は以前に報告された自発性バースト発射に関する神経回路網の性質と一致していた。
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