歩行運動の様なリズム運動は脊謎の神経回路網によって駆動される。本研究では、ラット胎児の脊髄摘出標本を用いてリズム運動中枢の発達について調べた。歩行様リズム運動は、主としてセロトニン(5-HI)の投与によって発現させた。 新生ラットにおける脊髄摘出標本あるいは脊髄・後肢摘出標本を用いた実験から第2腰髄前根のリズム活動は歩行運動の屈筋相を、第5腰髄前根の活動は主として伸筋相の活動を代表していることを明らかにした。直接の筋活動の記録が困難な胎児において、屈筋と伸筋へのリズム発生神経機構の分化について第2腰髄前根と第5腰髄前根の記録を行い解析した。その結果、左右の交代性リズムを形成する神経回路は胎生18.5日までに分化するが、伸筋・屈肪の交代性リズムを形成する回路はそれより1〜2日遅れて分化することが明らかになった。薬理学的実験から左右及び伸筋・屈筋の交代性リズムを形成する機構の形成には、いずれもグリシン性の抑制路の発達が深く関与していることを明らかにした。 さらに、5-HTの投与により励起される初期のリズム形成神経回路網の性質について薬理学的に調べた。胎生14.5日-16.5日の標本では、興奮性伝達を担うグルタミン酸受容体の拮抗薬であるキヌレン酸の投与によって、5-HT誘発リズムは影響を受けなかった。しかし、成熟動物の脊髄内において抑制性伝達物質として作用するグリシンの受容体の拮抗薬であるストリキニーネの投与によって、このリズムは完全に消失した。これらの結果から、5-HTによって誘発される初期のリズムの形成には主にグリシン受容体を介した興奮性のシナプス入力が重要な役割を果たしていることが示唆された。すなわち、胎生後期におけるグリシン性のシナプス伝達機構の変化が歩行中枢の分化にとって本質罰な役割を担っていることが示唆された。
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