サッケードを直接起こす信号は脳幹のバーストニューロンにより運動ニューロンに伝えられる。このバーストニューロンの活動は橋網様体のオムニポ-ズニューロンからの抑制入力により制御されていることは良く知られてる。オムニポ-ズ-ニューロンは注視時に持続的な発射を示すが、サッケードに一致して活動を休止し、この活動休止により始めてバーストニューロンの発射が可能になる。オムニポ-ズニューロンの活動休止はサッケードの開始と持続を決める最も重要な信号であるが、活動休止がどのようなメカニズムにより生ずるかは不明である。本研究では、覚醒状態のネコ慢性標本を用い、実際にサッケードがおこる際のオムニポ-ズニューロンの膜電位変化を細胞内記録法により調べ、活動休止がどのようなシナプス入力により引き起こされるかを解析した。その結果、膜電位はサッケードに先行して急激な過分極性変化を示し、この膜電位変化はクロールイオン注入により脱分極性応答に逆転したことから、抑制性入力により生ずるIPSPであることが明らかにされた。さらに定量解析の結果、IPSPの持続時間はサッケードの持続に等しく、その振幅の時間経過は眼球速度の時間経過とよく一致することが示された。すなわち、活動休止は眼球速度をコードするニューロン群からの抑制性入力により引き起こされることが明らかにされた。以上の結果から、オムニポ-ズニューロンへの抑制はバーストニューロンに由来すること、両者の相互抑制により注視とサッケードの急速なスイッチングが起こると考えられた。
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