1. 逆行性伝達物質がシナプス伝達の可塑的変化に重要な役割を担っている可能性が指摘されているが、抑制性シナプスでの研究はまだ少ない。そこで、抑制性シナプス伝達の可塑的変化の一つである"DSI"という現象(シナプス後ニューロンの脱分極により誘発される抑制性シナプス伝達の一過性抑制)における逆行性伝達物質の役割を明らかにすることを試みた。 2. ラットの培養海馬ニューロンを用い、DSIに関与する逆行性伝達物質の同定およびその放出・作用メカニズムについて調べたところ、以下のことが判明した。 (1) 脳スライス標本で観察されているDSIという現象は培養系で再現可能である。 (2) DSIの誘導には細胞外のカルシウムイオンが必要である。 (3) DSIには電位依存性カルシウムチャネルが関与する。 (4) DSIはシナプス前終末からの伝達物質放出量の減少による。 (5) DSIはプロテインキナーゼC活性化剤であるホルボールエステルにより抑制される。 (6) DSIにはカルシウム/カルモデュリン依存性プロテインキナーゼII(CaM kinaseII)の活性化が必要である。 (7) DSIはまわりのシナブスにも広がりうる。 3. 以上の結果より、DSIのメカニズムとして以下のようなモデルを考えた。 シナプス後ニューロンの脱分極により電位依存性カルシウムチャネルが開口し、細胞内カルシウム濃度が上昇し、CaM kinaseII依存性の機構により逆行性伝達物質が放出される。それが抑制性シナブスのシナプス前終末部の受容体に結合し、ホルボールエステル感受性の機構を介し、伝達物質の放出が抑制される。 今後はこのモデルを検証したい。
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