侵害性の感覚情報は、無髄のC線維や細い有髄のAδ線維により末梢から脊髄後角の表層、特に第II層の膠様質細胞へ伝えられ、そこで痛みの伝達の修飾や統合が行われると考えられている。後根を付した脊髄スライス標本の膠様質細胞にブラインド・パッチクランプ膜電位固定法を適用し、急性、或いは、慢性に痛みを誘起する刺激がグルタミン酸作動性の興奮性シナプス後電流(EPSC)にどのような影響を及ぼすか調べ、次のことを明らかにした。(1)Aδ線維の頻回刺激によりnon-NMDA受容体応答に加えてAP-5やMg^<2+>に対する感受性の低いNMDA受容体応答が発生する、(2)トウガラシの辛み成分であるカプサイシンは伝達物質の自発性放出を増加させる一方、Aδ線維の刺激により誘起されるEPSC(Aδ-EPSC)の振幅を変化させずにC線維の刺激により誘起されるEPSC(C-EPSC)を30分以上抑制する、(3)フロインドアジュバントにより作製された炎症モデルラットでは正常ラットに比べてシナプス応答に変化が見られる。例えば、C-EPSCは影響されずにAδ-EPSCが記録される割合が減少する一方、Aβ線維の刺激により誘起されるEPSCの記録される割合が増加する。 以上の結果より、膠様質におけるグルタミン酸作動性の興奮性シナプス伝達にはnon-NMDA受容体やNMDA受容体が関与しており、このシナプス伝達は痛み刺激により可塑的に変化し得ることが明らかになった。例えば、カプサイシンはC線維に特異的に作用して長時間神経刺激誘起性のシナプス伝達を抑制する。これはカプサイシンの急性の鎮痛作用に寄与すると思われる。又、炎症モデルラットでは触刺激を伝えるAβ線維が膠様質細胞に入力するようなシナプス結合の可塑性が起こる。これはアロデニアに関与する可能性がある。
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