脊髄後角のエンケファリン含有ニューロンの同定とその生理学的特徴について、パッチクランプ記録と単一細胞RT-PCR法による検討を引き続いて行った。以下の様な成果が得られた。 1. 単一細胞RT-PCR法の感度増強のための種々の改善を試み、後角表層の直径およそ10μmの極めて小型のニューロンから、3種類の遺伝子について単一細胞RT-PCR法による同定が出来るようになった。β-アクチン、メチオニン-エンケファリン(Enk)およびセロトニン3型受容体のmRNAの発現の有無を、同一の細胞において検討した。その結果、(1)後角表層に分布するニューロンのおよそ70%がEnk mRNAを発現しているが、後角深層に分布するニューロンではおよそ15%にしかEnk mRNAが検出できなかった。(2) Enk含有ニューロンのおよそ30%には、セロトニン3型受容体mRNAが発現していた。 2. パッチクランプ法によって後角表層ニューロンの電気生理学的性質の検討を加え、単一細胞RT-PCR法によるEnk mRNAの発現の有無とを対応させることが出来た。その結果、(1) Enk含有ニューロンでは、脱分極通電によって誘発される活動電位の発生頻度が通電中に徐々に減少をして行く性質を示した。(2)脊髄後角表層ニューロンには、Delayed Rectifier、Ca^<2+>-DependentおよびA-typeのKu^+ currentが記録された。そして特にEnk含有ニューロンでは、A-type K^+ currentの比率が大きいことが観察された。 今後さらに、Enk含有ニューロンのカルシウムチャネルの性質、バルビツレート等の薬剤に対する反応性などについて検討を加えて行きたい。
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