網膜神経細胞の活動はシナプス間隙Ca^<2+>やZn^<2+>濃度の変動を引き起こし、シナプス後膜受容体の活性に影響を与えると考えられる。昨年度の研究からCa^<2+>とZn^<2+>はアメリカナマズ網膜水平細胞GABAc受容体上に独立な結合部位をもち、細胞外Ca^<2+>やZn^<2+>濃度に依存してGABAc受容体の活性が変化すること、またCa^<2+>とZn^<2+>の効果は拮抗的である事が明らかとなった。しかしながら冷血動物網膜は哺乳類網膜と解剖学的構築が異なることが知られており、網膜シナプス部での情報伝達の調節機構も異なると考えられる。そこで本年度はマウス網膜双極細胞にパッチクランプ法を適用し、GABA応答の細胞外Ca^<2+>およびZn^<2+>濃度依存性調節機構について検討した。 本実験ではマウス網膜より単離した双極細胞を用いた。急速潅流法を用いてGABAを投与したときに発生するClイオン電流は、GABA_A受容体とGABAc受容体の二種類の受容体から発生する電流成分を含んでいた。この二つの電流成分はGABA受容体サブタイプ特異的拮抗薬を用いることで選択的に抑制することが出来た。細胞外Zn^<2+>はGABAc応答をより強く抑制し、GABA_A応答への抑制は弱かった。Zn^<2+>の作用のIC_<50>はGABA_A応答が67μM、GABAc応答が1.9μMと約30倍の違いがみられた。一方細胞外液Ca^<2+>濃度を変化させてもGABAc応答の大きさに変化はみられなかった。このことから捕乳類網膜ではZn^<2+>がシナプス応答の調節に関与している可能性が示唆された。 電気泳動法を用いてGABAを投与し、GABA受容体の局在を検討したところ、GABA応答は細胞体、樹状突起、軸索終末のいずれにおいても観察された。このうち軸索終末部がもっとも感度が高かった。網膜双極細胞は内網状層と外網状層でシナプスを形成していることから、Zn^<2+>とGABA受容体の作用部位を特定するため、組織学的手法を用いて網膜内のZn^<2+>の局在について現在検討中である。
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