脊椎動物網膜では、同種の神経細胞がギャップ結合している。このギャップ結合の生理機能を解析するため、下等脊椎動物網膜から単離した神経細胞に発現するヘミギャップ結合チャネルに着目し、このチャネルの生理学的及び薬理学的性質をwhole-cell voltage-clamp法を用いて解析した。 1.単離水平細胞の膜電位を+20mVに固定し、細胞外液からCa^<2+>を除去するか或いは細胞外液にキニン(0.5mM)を添加すると、緩徐な外向き電流が発生した。この電流は1-Octanol(4.6mM)、Halothane(飽和濃度)、Dopamine(2μM)或いは8-Bromo-cAMP(2mM)によって抑制されることから、ヘミギャップ結合チャネルの活性化によると考えられた。 2.ヘミギャップ結合チャネル電流はH-89(プロテインキナーゼ阻害剤)(2μM)により増大し、またOkadaic acid(プロテインホスファターゼ阻害剤)(10μM)により減少した。さらに、この電流は細胞内外の水素イオン濃度の上昇により減少し、下降により増加した。ヘミギャップ結合チャネルの開閉制御に、細胞内因子が中心的役割を果たしていると考えられた。 3.キヌレン酸(5mM)を用いてイオンチャネル直結型Glu受容体を阻害した後、Glu(500μM)を投与したが、ヘミギャップ結合チャネル電流に顕著な変化は認められなかった。代謝調節型Glu受容体の活性化を介して生じる細胞内cGMP濃度上昇は、ギャップ結合チャネルの開閉に影響しないと考えられた。 4.水平細胞以外の網膜内神経細胞を種々の膜電位に固定し、細胞外液からCa^<2+>の除去或いは細胞外液へのキニン添加を実施したが、電流発生は認められなかった。水平細胞以外の網膜細胞間ギャップ結合は細胞体でなく、むしろ樹状突起部に局在していると考えられた。
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