研究概要 |
新生ウイスターラットの大脳皮質より酵素的にグリア細胞(アストロサイト)を単離、約1ヵ月培養を行いダリア細胞間のギャップ結合の影響をなくすために、実験2-3日前に再度単離・培養し、ニスタチン穿孔パッチクランプ法を用いてNa,K-pump電流(Ip)を測定した。平成10年度は虚血類自負荷の影響について観察を行い、以下の知見を得た。 1. 細胞内Na^+存在下に細胞外K^+濃度を増加させると外向き電流が発生した。この電流はNa,K-ATPaseの選択的阻害薬ウワバインによって抑制されたことからK^+誘起電流はIpであると考えられた。 2. 虚血類似負荷として、代謝阻害剤(CN^-、CCCP)および無グルコースの影響について検討した。 (1) 細胞外K^+投与によって外向きIpを発生させた後、代謝阻害剤としてCN^-(3mM)を灌流投与すると内向き電流が発生、IPが抑制された様に思われた。しかし、このCN^-誘起内向き電流は細胞外K^+非存在下でも観察 され、電流-電圧関係を調べた結果、逆転電位は0mV付近に存在し、CN^-誘起カチオンチャネルによる可能性が高く、Ipとの関係は少ないと考えられた。 (2) 代謝阻害剤としてCCCP(10μM)を灌流投与すると、数秒間の内向き電流発生の後、緩徐な外向き電流が発生した。電流-電圧関係を調べた結果、緩徐な外向き電流はその逆転電位が-80mV付近に存在し、K^+チャネルの開口によって発生することが考えられた。一方、内向き電流の逆転電位は-40mV付近であったが、それに続く外向き電流の関与を考慮すると、本来の逆転電位はさらに脱分極側に存在すると考えられた。 (3) 無グルコース液の潅流投与時、膜電流には明かな変化は観察できなかった。また、無グルコースとCCCPの同時投与は、CCCPの単独投与の場合と殆ど変らなかった。 以上の結果より、虚血類似負荷はグリア細胞のIpに直接的な影響を与えることは少ないことが判明した。このことはダリア細胞に存在するNa,K-pumpが虚血中でも正常に働いている可能性を示し、脳虚血中に増加する細胞外K^+の恒常性維持に寄与していることを示唆する。
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