研究概要 |
マウスのter(teratoma)突然変異遺伝子(18番染色体)は,ter遺伝子を種々の系統に導入して樹立したterコンジェニック系統のter/ter胚に,始原生殖細胞(PGC)欠損を引き起こす.また,+/+胎仔精巣体細胞の培養液(コンディションドメデイウム,CM)を添加したPGC培養系ではPGC数は増すが,ter/terCMでは激減した.本研究では,新規PGC増殖因子(TER Factor, TERFと命名)とter/terPGC自体の性状とを探り,ter遺伝子のクローニングを目標とした.成果を示す. 1)胎仔卵巣或いは精巣体細胞の+/terおよび+/+型CMは,通常マウスのPGC培養系に添加するとPGCのアポトーシスを抑え生存を支持し,その有効成分は,熱変性,凍結耐性,分子量3万以上,無血清培地で失活する性質を示した.同ter/terCMはPGCのアポトーシスを止めずPGCは激減した.PGCのDNA合成や分化及び体細胞に対する効果にCMの差はなかった. 2)単離したter/terおよび+/+PGCは,+/+体細胞と共培養するとPGCの発生段階によらず生存したが,ter/ter体細胞との共培養では,DNA合成は正常に行ったが,アポトーシスを起こし,+/+CMを添加しても回復しなかった.PGCは各体細胞に接触していた. 3)既知のPGC増殖因子数種とそれらのレセプターの発現にはter/terおよび+/+精巣で差はなかった. 4)以上から,+/+体細胞の産生するPGC増殖因子TERFは分泌型と膜結合型から成るPGCのアポトーシスを抑制し,発生初期からPGCに特異的に作用しその生存を支持する新規の増殖因子であること,ter/ter体細胞はそれらの欠陥因子を産生しPGC欠損を招くこと及び,ter/terPGCは正常であることが判明した. 5)ter遺伝子のクローニングは進行中.
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