不快感尺度として用いるカプサイシン(CAP)血管痛モデルにおける情動系を介した自律神経系に与える影響を観察する目的CAP投与前後での比較を実施した。観察項目としては、心電図R-R間隔の変動に着目して時系列のスペクトル分析を行った。痛み刺激を与える前後のR-R間隔の1Hz以下の低周波領域におけるパワー密度は、痛み刺激を与える前で比較的低周波、高周波領域ともバランスがとれた分布を示したが、刺激後では、特に低周波領域においてパワーの増大が認められた。この傾向は刺激直後に強く発現した。R-R間隔の経時的変化においても刺激直後に心拍数の低下、いわゆる徐脈化が現れ、以後、暫時同復する事が観察された。両者のパワースペクル密度と低周波領域での周波数との関連を検討したところ、刺激前後において傾きが周波数に逆比例する1/f^b特性が認められた。しかしながら、bの値(傾き)は両者で著明に異なっており、刺激前の値が約1.5、刺激後が約2.8と刺激後の方が傾斜が強くなる事が観察された。以上の結果は心拍間隔に自律神経系が強く関与することを示しており、痛み刺激により惹起される情動的変化を捉える一つの指標としての有用性が示唆された。
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