研究概要 |
モルモット血管痛モデルの確立のため、特に痛みに伴う情動変化の定量化を中心に検討したところ、1)種々の発痛物質誘発啼声反応の音声積分値(VC)が用量依存的な値の変化を示した。2)発痛物質誘発啼声反応のVC値がモルヒネ局所投与および局所麻酔により著明に減少した。3)痛みの神経内伝達物質作動薬(substance P;SP,neurokinin A:NKA,NMDA)およびそれらの受容体拮抗薬(SP-NK1受容体,NKA-NK2受容体,NMDA受容体)を脊髄クモ膜下腔内へ投与したところ、NKAのみカプサイシン(CAP)誘発啼声反応のVC値を増大させ、その拮抗薬およびNMDA受容体拮抗薬はVC値を著明に減少させた。以上の結果から、本モデルは血管痛動物モデルとして有用であることが示された。一方、不快感尺度としてCAP血管痛モデルにおける情動系を介した自律神経系に与える影響を観察する目的CAP投与前後での心拍間隔を比較した。観察項目としては、心電図R-R間隔の変動に着目して時系列のスペクトル分析を行った。1)痛み刺激を与える前後のR-R間隔の1Hz以下の低周波領域におけるパワースペクトル密度は、痛み刺激を与える前で比較的低周波、高周波領域ともバランスがとれた分布を示したが、刺激後では、特に低周波領域においてパワーの増大が認められた。この傾向は刺激直後に強く発現した。R-R間隔の経時的変化においても刺激直後に心拍数の低下、いわゆる徐脈化が現れ、以後、暫時回復する事が観察された。2)痛み刺激前後のパワースペクル密度と低周波領域での周波数との関連を検討したところ、刺激前後において傾きが周波数に逆比例する1/f^b特性が認められた。しかしながら、bの値(傾き)は両者で著明に異なっており、刺激前の値が約1.7、刺激後が約2.8と刺激後の方が傾斜、すなわち自己相関が強くなる事が観察された。以上の結果は心拍間隔に自律神経系が強く関与することを示しており、痛み刺激により惹起される情動的変化を捉える一つの指標としての有用性が示唆された。
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