慢性関節リウマチ(RA)患者滑膜組織由来の滑膜浸潤細胞を用いて、in vitroでパンヌス様炎症組織を形成する実験系と、滑膜浸潤細胞をSCID bg.マウスやRag-2欠損マウス関節内に移入してパンヌス形成や関節破壊を高率に惹起する実験系を独自に開発した。このin vitroおよびin vivoヒト細胞モデルを用いて、パンヌス形成に関与する細胞や分子の同定と、このモデルを応用した新しいRAの治療戦略の確立を目指した。過去2年間の研究において、以下の成績が得られた。1)in vitroおよびin vivoヒト細胞モデルにおけるパンヌス形成は、二重盲験比較対照試験で抗リウマチ作用が証明されている薬剤(メトトレキサート(MTX)、金塩、ステロイド、抗TNF-a抗体、シクロスポリン、レフルノマイド)で用量依存的に抑制されるが、抗リウマチ作用のない薬剤(Cox阻害薬、抗CD4抗体)では抑制されない。これは、病態モデルとしての有用性を裏付ける成績である。2)MTXの抗リウマチ作用は未だ明らかでないが、このモデルを用いた検討により、MTXは滑膜異種細胞間の相互作用によるIL-6の発現を特異的に抑制することが明らかとなった。3)滑膜組織に浸潤するT細胞の多くは、in vitroおよびin vivoヒト細胞モデルにおけるパンヌス形成を抑制した。RA滑膜炎の制御機構の一翼を担っているものと考えられた。4)一方、ヒト細胞モデルにおけるパンヌス形成には滑膜マクロファージと線維芽細胞との相互作用が必須であることが明らかとなった。5)パンヌス形成は、内因性PGE2産生を阻害するCox阻害薬により増強され、PGE1やペントキシフィリンなど細胞内cAMP上昇を惹起する薬剤により顕著に抑制された。さらに両者を併用すると相乗的にパンヌス形成が抑制された。この成績をもとに、lipo-PGE1とペントキシフィリン併用療法を臨床試験により検討した結果、その有用性が明らかとなった。
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