本研究は肝臓に特異的な機能である肝再生のメカニズムを、^<31>P-MRS法によりATPを中心とするリン代謝動態と細胞内情報伝達機構との関連という観点から明らかにする目的で立案し、今年度は下記の成果を得た。 1.既存FT-NMR装置と組み合わせる肝灌流システムの改良を行い、長時間安定な灌流を可能とした。また、ラット摘出肝からの^<31>P-NMRスペクトルの最適測定条件を検討し、測定手法を確立した。 2.ラット正常灌流肝臓を対象にコレラ毒素を投与し、投与後60分間にわたりリンNMRスペクトルを計測した。この結果、コレラ毒素投与直後から肝内ATPと無機リン(Pi)はともに徐々に減少することを確認した。また、これらの減少程度はコレラ毒素投与量に依存する傾向を示した。なおATP/Pi比はほぼ一定であり、コレラ毒素投与後も肝内エネルギー状態はほぼ一定に保たれていることが示唆された。また、フォルスコリンの投与による効果を明らかにするために、現在最適投与法や投与量について検討中である。 3.蛋白質リン酸化酵素活性阻害剤であるk-252bを灌流開始30分前に陰茎静脈より静注後の摘出肝臓にコレラ毒素を投与し、2.と同様の検討を行った。この結果、ATPとPiの減少程度は抑制されることを確認した。また、より選択性の高いHシリーズ阻害剤の投与条件についても検討中である。 4.上記2.および3.において流出灌流液を経時的に採取し、サイクリックAMP(cAMP)濃度を本研究費で購入した全自動比色計を用いて測定した。コレラ毒素投与群では投与直後からcAMP濃度が一過性に増加するのに対して、コレラ毒素活性が低くATPやPiの変化が認められない場合にはcAMP濃度の一過性の増加も認められなかった。
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