本研究は肝臓に特異的な機能である肝再生のメカニズムを、^<31>P-MRS法によりリン代謝動態と細胞内情報伝達機構との関連から探る可能性を明らかにする目的で行い、以下の結果を得た。 1. ラット灌流肝臓にコレラ毒素を投与した場合、投与量に依存して肝内ATPと無機リン(Pi)はともに徐々に減少することを明らかにした。この時、phosphomonoesters(PME)レベルおよびエネルギー状態の指標であるATP/Pi比はほぼ一定であった。 2. アデニル酸シクラーゼを活性化することが知られているホルスコリンを投与することにより、コレラ毒素投与時と同様にATPが大幅に減少することを明らかにした。 3. 蛋白質リン酸化酵素の活性阻害剤であるk-252bを灌流開始前に静注後、コレラ毒素を投与した場合、ATPとPiの減少程度が有意に抑制されることを明らかにした。また、k-252bよりもより選択的にサイクリックAMP(cAMP)依存性蛋白質リン酸化酵素(Aキナーゼ)の活性を阻害するとされるH-89を前投与した場合も、同様にATPとPiの減少程度が抑制された。 4. 肝からの流出灌流液を経時的に採取し、cAMP濃度を測定した。この結果、コレラ毒素投与後cAMP濃度が投与量に依存して一過性に増加した。また、蛋白質リン酸化酵素活性阻害剤を前投与した場合も、cAMP濃度は同様の変化を示すことを明らかにした。 5. 以上の結果は、コレラ毒素やホルスコリン投与により、アデニル酸シクラーゼが活性化されて信号伝達の2次メッセンジャーであるcAMPが増加し、cAMP依存性蛋白質リン酸化酵素の活性化に伴い、蛋白質のリン酸化に大量のATPが利用され、臓器機能の発現に密接に関与していることを示唆している。
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