研究概要 |
心室の最大エラスタンスEmaxは,補助人工心臓によって補助される自然心臓のポンプ機能を評価するための良い指標となる可能性があり,この量が得られれば補助人工心臓の離脱時期の決定に大きく貢献する.しかし,従来Emaxを得るためには心室容積を侵襲的に直接計測する必要があり,これが臨床応用への大きな障害となっていた.本研究では,心室容積を侵襲的に直接計測する必要のないEmax推定法の妥当性を,動物実験により検証するとともに,臨床応用可能なEmax推定システムを構築することを目的とする. 昨年度では,Emaxを推定する問題が一般的な逆問題として定式化されることを示し,ある一拍の駆出期における心室容積あるいは拍出流量と心室圧の瞬時値に基づいてEmaxを推定するためのアルゴリズムを導いた.本年度では,このアルゴリズムにしたがってEmaxを推定することのできるシステムをパソコン上に実装した.また,山羊において,前負荷・後負荷の変動および薬剤負荷によりさまざまな状態を作り,それらの状態において心室容積・拍出流量・心室圧を計測する実験を行った.これらの計測量に基づき本研究で提案した方法と従来法によりEmaxを推定し,両者を比較した.その結果,両者の相関係数は0.9程度であり,提案した方法が十分実用的であることが明らかとなった.さらに,従来法では不可能であった拍単位でのEmaxの推定が,収縮末期圧-容積直線の容積軸切片の誤差として一回拍出量の数パーセント程度で実行できることも明らかになった. 今後に残された課題は,より多くの動物実験に基づき,従来の方法と比較することにより本方法の妥当性をさらに検討することあるとともに,侵襲性を低くするために,心室圧の代わりに動脈圧を計測する場合にも本方法を拡張していくことであると考えられる.
|