癌や肝硬変などの疾患では、組織の硬さ(弾性率)の変化から早期に診断できる場合が多いが、触診で得られる情報は客観性や定量性に乏しく、さらに病巣の大きさや深さなどにより触知が困難になる場合がある。 本研究は、医師がプローブを用手的に体表に押し当てるだけで、触診で探るように定量性のある弾性率の3次元分布画を描出するいわば超音波触診システムでの開発を目指し、そのため以下のテーマについて取り組んだ。まず、弾性率分布計測の基礎となる歪み分布計測について、実時間でかつ大きな歪みに対しても安定に計測可能な手法として複合自己相関法を開発した。次に、3次元組識モデルに基づき、比較的高い精度が得やすい超音波ビーム方向の歪み成分のみから3次元の弾性率分布を得る手法を開発した。これらについて、シミュレーションにより定量的な特性評価を行った結果、乳房腫瘍などの検出に適用可能な弾性率のコントラスト分解能や空間分解能が達成できることが示された。一方、処理の実時間性を重視した方法として、複合自己相関法をもとに測定した3次元の組織変位ベクトルから弾性率分布を得る方法についても検討した。 さらに、3次元組識モデルを用いた手法については、既存の超音波プローブを利用して基礎的な計測システムを製作し、ファントム実験により理論の妥当性を検証した。また、摘出した乳房腫瘍検体について計測では、歪み像や弾性率像により腫瘍部が明瞭に視覚化され、さらに腫瘍の良悪性鑑別の可能性が示唆された。一方、3次元変位ベクトルを用いる手法については、より高精度の変位計測が要求され、その特性はプローブの形状にも依存すると思われる。また、実験のためには専用の超音波プローブや送受信システムを構成する必要がある。この最適なプローブの形状の検討や実験による検証が、今後の検討すべき課題である。
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