研究概要 |
本研究は,加齢に伴って変化するヒトの感覚感性と行動様式の解明を目的としており,本年度は,健常高齢者の日常生活動作の中で最も基本とされる歩行動作を解析した.バイオメカニクス的観点から年齢,性別および歩行路等の条件によって,歩行形態にどの様な差異が見られるのかを詳細に測定し,解析を行った.測定では,感圧導電ゴムセンサによる足底接触圧力測定システムを使用し,高齢被験者への負担を最小限に抑えた.歩行時における足底の接触動態,接触圧力および歩行周期等を明らかにすると共に,一連の歩行動作に伴う動作形態を多方向ビデオ撮影法により3次元的に解析した.他方,歩行時の関節角度変化等を明らかにするため,平坦路歩行,坂道上昇歩行,坂道降下歩行,階段上昇歩行および階段降下歩行を測定対象とし,高齢被験者の安全を最優先に考えると共に,特別養護老人ホームの設置物をそのまま用いた.また,被験者には手摺りを使用した歩行も可とし,歩行速度は自由とした.被験者の年齢構成は,66〜85歳であり,日常の生活動作に支障を認めない男性1名,女性4名について測定を行った.一方,比較を行うため,23〜25歳の若年群として男性3名,女性2名も測定対象とした. 測定結果より,高齢者は,若年者に比べて,つま先の蹴り出し時の圧力値が明らかに小さく,前進するための蹴り出し力が弱いことを明らかにした.また,踵接地時の圧力に大きな変化はないが,1歩行周期中において,中足部で圧力がやや大きくなる現象は,高齢者の場合に早く(約20%)見られる傾向が認められた.このことから,高齢者は足裏全体を長く使用した歩行を行うのに対し,若年者は床反力を踵からつま先に向けて,スムーズに抜く様に歩行する傾向が認められた.また,高齢者の階段降下時を除く歩行では,ほぼ同じパターンが見られた.従って,高齢者は歩行路の状況,即ち,階段であろうとスロープであろうと余り意識することなく,一定した歩き方をしており,反射力,順応力,筋力に依存しない歩き方をしていること等が本研究より明示された.
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