研究概要 |
本研究は,加齢に伴って変化するヒトの感覚感性と行動様式の解明を目的としており,初年度である昨年においては,健常高齢者の日常生活動作の中で最も基本とされる歩行動作を解析した.特に、平坦路、坂道、階段の歩行における献上高齢者特有の歩行形態を解析し、若年者よりも明らかに前進するための蹴り出し力が弱いことや足裏全体を出来るだけ長く接地して転倒しないようにしていること等を明示した.2年目の本年度は,実際の高齢者、即ち老人性痴呆症、変形股関節症、脳梗塞などの症状を有する高齢者に解析対象を絞り、更に、高齢者を後期高齢者(75歳以上)と前期高齢者(65歳以上75歳末満)に分類して,高齢者の歩行バランスや手すりの使用に伴う歩行動作,足底圧力による足裏の圧覚、歩行に伴う下肢の関節、即ち股関節、膝関節、足関節の運動および床反力等を同時に測定した。これらによって、前期高齢者では、爪先が離床する直前に僅かな蹴り出し力が認められるのに対し、後期高齢者では蹴り出し力および足関節の屈曲が殆ど認められず、背屈は若年者の約半分であることなどを明示した。即ち、後期高齢者の歩行様式は能役者の静的歩行動作に極めて近く、脳梗塞、痴呆症であっても転倒しないように最大限の注意を払っていることを明らかにした。次に、交通事故における高齢者の死亡事故が増加していることに注目し、高齢者の運転能力を評価するための、生体力学に基づく厳密な基礎資料を得る実験を行った。予めスクリーンを利用したモニタリング実験を行って人と車両の飛び出しによる危険状態での生理学的応答性を測定した後、実車による測定を行った。圧力センサー内臓型手袋を着用し、直進、右折・左折動作時のハンドル操作特性を,また,アイマークレコーダを頭部に装着して運転者の眼球運動および視野をそれぞれ解析した.高齢者は比較的狭い視野の中で眼球をほぼ上下方向のみに頻繁に動かすことによって視覚情報を獲得し、危険状態に対処することや,人や車両の飛び出しに対する反応動作は、若年者のそれに何ら劣らないことを明示した。
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