生体吸収性を持つポリ乳酸重合体(PLA)と、筆者らの開発した強靱性の生体親和性β-Ca(PO_3)_2ファイバー(CPF)との複合化により、骨と同等の弾性率、外部からの荷重にも耐えうる靭性、さらに骨伝導性をも有する新しい生体吸収性人工骨材料を開発することに主眼に置き、本研究を進めた。 ジクロロメタン中に溶かしたPLAにCPFを混入し、室温で乾燥させ、180℃でホットプレスすることで複合体を得ることができた。このとき、CPFを予め薄いNaOH水溶液で処理して表面にオルトリン酸カルシウム相を生成させたもの用いることが複合化のために不可欠であることを見いだした。5GPa以上のヤング率をもつ材料の作製は、20%以上のCPFを複合することにより達成できた。この複合体は、最大応力に達した後、徐々に段階的に破壊した。破壊には大きなエネルギー(アパタイト焼結体の20倍以上)が必要とされることが分かった。これはCPFがマトリックスと一体化していることに起因する。 生体内挙動の予測として、PLA/CPF複合体を疑似体液に浸漬して強度の変化について検討した。3カ月浸漬すると、PLAの曲げ強度が約80%も低下したのに対し、CPF35%複合体では初期の約50%を維持していた。浸漬前後の試料の応力-歪み曲線から、PLA単体では完全に脆化してカタストロフィックな破壊を示したのに対し、CPF含有量35wt%複合体では浸漬後も粘り強い破壊挙動を維持した。曲げ強度の低下および脆化は水によってPLAが分解されることによる。しかし、CPFが含有されていると、PLAが脆化しても、荷重を巧くファイバーが負担して、試料全体の粘り強い性質を維持するのに貢献すると考えられた。生体内である程度長い期間の生体吸収性インプラントを必要とする場合に適した材料になると期待される。
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