整形外科での治療に伴うものに近い痛みで、正常者で模擬的な実験が可能なよう、前腕部に鞭打様の衝撃を再現性よく印加する専用の痛み付加装置を作成し、数名の正常被験者に対し、痛み刺激の印加中に自律脳波、胸部心電図、鼻孔サーミスタによる呼吸波形、痛み印加と反対側の前腕部或いは顔面の表面筋電図、皮膚電気反射(GSR)等を無侵襲的に同時計測し、後の処理のため、刺激系列とともに多チャネルのデータレコーダに記録した。脳波については主に周波数解析を行った。また、タコグラムと逆数回路を用い、心電図より瞬時心拍数およびその平均的トレンドを求めた。 脳波については、電気的環境条件を考慮してテレメトリによったが、なお、交流雑音の混入が多く、現在の時点では、基礎律動の解析から有意な結論が得られていない。また、痛みによる誘発脳波を調べるべきだが、痛み刺激の繰り返し印加回数を、人道上、あまり多くできないため、明確な結果を導くことが困難であった。GSRについては痛みに同期して大きな反応がみられるが、なお、被験者の個性及び心理状態により同一の刺激条件でも全く出現しないこともあり、GSR単独では痛みの程度を評価できないことが知られた。心電図波形そのものは痛みにより変化がないが、心拍数のトレンドにはGSRと同様、明確な反応が見られることがあるものの、やはり個人差等が多く、かつ、GSRの出現とも、必ずしも一致しない。従って、これらの情報に筋電図や呼吸数の変動パタンを含めて、複数の生理情報を総合的に解析し、より定量性のある評価を行うべきことが示唆された。 次年度には、より臨床の現実に近い痛みの印加方法の検討とともに、痛みの反応が潜む生理情報を選別し総合評価する解析手法を導出する予定である。
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