研究概要 |
本研究では、生体分子の軟X線領域での吸収スペクトル(XANES)測定を、従来の乾燥薄膜あるいは粉末状態ではなく、生体環境に近い状態での測定(方法の開発も含む)を目的とした。これらの結果は、生体内の原子あるいは分子の化学マッピングにXANESピークを利用する際に重要な情報を提供すると考えられる。成果は以下の通りである。 1. 水溶液中での生体分子のXANES測定 真空中に設置可能な水溶液試料のための試料槽を製作し、S含有生体分子のXANESをS-K吸収端にて測定した。SH化合物とSS化合物がピーク位置により分離可能なこと、ピーク位置は、乾燥試料と比べてわずかにシフトすること、また分子量には依存しないことが明らかとなった。この結果を用いて、生体内で酸化ストレスからの防護に重要な役割を果たすグルタチオンの放射線照射による減少を、これまでに例のないin situで検出可能であることを示した。 2. 細胞及び細胞内小器官のXANES測定 細胞全体、核、ミトコンドリアに対し乾燥ペレット状態でXANES測定を行った。例えばN-K吸収端で核酸、蛋白質に対応するピークが観察された。その他Ca,S,O吸収端での一連の結果から、基本的に細胞内の分子イメージングには分子単独のXANES情報が利用できることが確認できた。ただし、O吸収端での例外もあり、吸収端によってさらに検討が必要である。 3. 細胞内微小領域の吸収スペクトルの測定 ズーミング管を検出器としたX線密着顕微鏡を用いて、核及び細胞質の吸収スペクトルをS-K吸収端にて測定した。単一細胞での微量元素Sの吸収端構造が明らかとなった。さらに測定点を増やすことによって細胞内微小領域のXANESプロファイルが明らかになることが期待される。
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