研究概要 |
脳の神経細胞の電気的興奮に基づいて発生する微小磁界すなわち脳磁図(MEG)の三次元計測法と解析法の開発を中心に研究を行った。特に,MEG計測法においては,従来,頭表に垂直な磁界成分(法線磁界成分)のみを測定し,そのデータに基づいた脳内の信号源の推定,いわゆる,逆問題を解いてきた。しかしながら,複数の信号源が存在する場合は,単純な双極子磁界分布とはならず複雑になり,信号源の数や向きなどの事前条件の不確定性が高くなり逆問題解の獲得が困難となる。そこで,本年度は,この逆問題解法の事前条件を実際の測定から得るために,三次元計測に基づいた逆問題解法アルゴリズムの開発を行うと共に,保有している三次元二次勾配型べクトルSQUID(超電導量子干渉素子)磁束計により,被験者の聴覚と体性感覚(右手正中神経)に刺激を与え,頭部で誘発される脳磁界(脳磁図)の計測を行い,脳内の複数信号源の分離と同定の可能性について実験的に検討した。その結果,従来の法線磁界成分のみからは推測できない2個の信号源が,接線磁界成分より求めた磁界分布からは明確に確認できた。また,開発した逆問題解法アルゴリズムを用いて信号源推定を行い,その推定位置を披験者の頭部MR画像上へ挿入した結果,解剖学的に知られている脳の聴覚野と体性感覚野に推定結果が同定され,脳磁図の三次元計測法の基礎が確立された。 これらの成果について学術雑誌に投稿し,1998年度の各論文誌(電気学会論文誌A:1編,日本応用磁気学会誌:3編,アメリカ物理学会誌1編)において掲載決定となっている。来年度は,本三次元ベクトル計測法の更なる進展を計りたいと考えている。
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