本研究は近世から現代に至る日本神話研究を大きく規定してきた本居宣長『古事記伝』の批判を大きな目標とし、宣長によって日本神話の主軸から退けられた『日本書紀』およびいわゆる書紀学の系譜を跡づけることを主たる研究の対象とする。現在の目標は「中世日本紀」全体にわたる特質を分析・抽出し、さらに『古事記伝』を見合わせることによって、中世において宣長『古事記伝』を準備したものが何であったかを見きわめることにある。 平成9年度には「中世日本紀」と総称される多様にひろがる言説群を上記の問題意識にもとづいて、広範に収集し、その整理を試みた。現在も進行中であるが、広範にわたり複雑な言説群に対して、二つの点を中心と周辺状況のそれぞれの軸としながら整理を行っている。まず第一に中心的な状況の軸としているのは、吉田兼倶『日本書紀神代抄』を結節点とする流れである。卜部兼方か一条兼良、吉田兼敦らの諸著作を先行研究とし、さらに清原宣賢らへと引き継かれていくもので、日本書紀をどう読み解釈するかに関して重要な機制をつくり出した系譜としてみなしうる。それに対して周辺状況については、『神道集』を一つの交流点とする整理を行っている。この書を媒介として調査することで、仏教説話や寺社縁起、古今注など中心的な展開の背景をなす多様なジャンルの言説を相互の連関が明らかになりつつある。平成10年度にはこうして整理を背景に分析し、その成果を論文としてまとめる予定である。
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