本年度は、昨年度の活動を基礎として、口頭発表や論文作成の形で成果をまとめた。 まず津軽地域の東照宮については、弘前の有力寺院の住職の手になる『御当家深秘録』を分析対象とし、六月に口頭発表を行った(「『御当家深秘録』の諸本-津軽東照宮勧請秘話-」1998年6月18日、神道古典研究会例会、於神道大系研究室)。その時点で調査の済んだ各地の写本5点を対象に、内容、特徴、系統について比較・分析し、より原初形態に近いものを探った。発表時に頂いた意見も参考にし、さらに6点の写本の調査を加えて、その成果を論文にまとめた(現在編集中)。その結果、文政年間に形成された東照宮信仰の一端が明らかになると共に、東照宮をとりまく津軽藩・南部藩・寛永寺教団それぞれの動向調査の材料が得られた。 次に秋田地域の東照宮については、既に口頭発表を行った(『秋大史学』43号に要旨)。現在、藩政府の東照宮祭祀および在地の宗教者の信仰形態の二側面から調査をまとめ、両者の関係について論文を執筆する作業を進めている。 最後に、会津地域の東照宮信仰については、田島町の修験寺院が境内に東照宮を祭っていた事例を見つけ、東照宮勧誘請の時期や、天領代官との関係など周辺の様子を調査した。現地を採訪した結果、それに関連する文書類が発見された。さらに、東照宮を祭る日光神社の所有をめぐり、修験同士で相論の生じたことも確認できた。この事例についてはなお調査を継続するが、ひとまず上記の諸点について、中間報告的な論文を作成した(現在校正中)。 以上の三地域の他に、南部・庄内・仙台等の調査を行い、東北地方の諸相を把握することを目指している。既に多少は手がけているものの、本格的な研究については、なお後日を期したい。
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