記述されたものの痕跡とそれに触発されて生じる情動解釈、視覚芸術作品に即して言い換えれば、画像が記述を呼び、逆にまた記述が画像の解釈や制作に影響し変更を加えていくこと、この相互関係を情動サイクルと名づけておいた。 前年度の研究では、前世紀転換期ドイツにおける情動サイクルのあり方として、 1)過去の作品の「収奪」、それと当時の作品との新たな系譜づくりに基づく 2)新たな「美学の構築」、そうして作られた美学に依拠した3)「新たな作品の制作」、この三者関係について考察した。 今年度は、この関係が現在の電子メディアにおいてどのような変化を被っているのか、これを考察することが目標とされた。フランス、ドイツ、日本、イタリア、アメリカなどの諸研究や、コミュニケーション・アートの歴史の考察、さらには実際の展覧会、電子メディア作品などの考察により、次のことが明らかとなった。現在の電子メディア環境では、上述の情動サイクルがあまりに速く、また無限に続くように思われるために、1)モノ(すなわち客体)ではなくそれに関わる主体が「収奪」されていること、すなわち客体としての「メディア的自己」と内なる自己とが別々に存在するかのような、みせかけの断裂のなかで、後者が前者に一体化しようと無限に監視を続けること、これを覆い隠すために2)ネットワーキングの「無限の連鎖」という「新たな美学」が構築されていること、同時にその虚を暴く3)「書き込みできないインタラクティヴ」としてのCD-ROMアートが「新たに制作」されていること、これが明らかにされたのである。
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