本年度は、東京都台東区谷中地区におけるアートプロジェクトを中心に、新しいパブリックアートの可能性と、それが都市におけるエコミュージアム的視点を導くことを検証した。具体的には、街づくりNPOである「谷中学校」を中心に開催された「谷中芸工展」に積極的に関わり、それが、地域独特の芸術的な場の力と記憶を喚起することに注目した。 また、他のアートプロジェクトと連携し催した「ART Link上野・谷中」と、大阪市平野区で開催された「モダンde平野」を分析し、非営利で自発的な市民主体の芸術活動の可能性と問題点を考察した。ここで、従来のパブリックアートとは異なる「コミュニティに結びついたパブリックアート」という立場を確認するが、それはオルタナティブな意識を高め、公共空間におけるアクティビストとしてのア-ティストという立場を明確にする。 このような新しい立場は、80年代以降の欧米の事例の中に多く確認され、それがモダニズムの美学を乗り越えるものとして意識された。つまり、美や芸術の自律性を標榜する純粋美学は有効性を失っているのである。それは、平成9年度美学会全国大会において中心テーマとなった環境美学の構想と軌を一にするものでもある。 環境美学は、応用美学として積極的に社会との関わりを提示するが、ここで人間が環境の主体となることの弊害は強く意識すべきである。つまり、環境は主体としての人間が「所有」するのでなく、環境に対する意識を「領有」するという立場が必要となる。すると、エコミュージアムやパブリックアートにおいては、スペクタクルやモニュメントとして「所有」されるのではなく、多く市民の慣習や記憶のなかで「領有」されるという立場が求められることになる。
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