平成9年度より継続の本研究の最終的な目的は水陸画の展開を明らかにし六道絵や十王図をはじめとする関連主題との関係を解明することにある。 本年度は、水陸画が関連主題との間になした影響関係を明らかにすることに主眼をおいた。そのためにまず前年度において抽出された水陸画の図像的特徴との間に類似関係のみられる作例について申請者の専門とする六道絵関係を中心に博捜し、水陸画との影響関係について分析を加えた。この分析の過程で、新知恩院本六道絵(重文)の主題が従来言われてきたような六道絵ではなく『法界聖凡水陸勝会修斎儀軌』と密接な関係をもつ水陸画である可能性が高いことが明らかとなった。この新知見は密教図像学会第18回学術大会(於金沢文庫)においてすでに口頭発表され、さらに論文が近く同学会誌『密教図像』第18号に掲載される予定である。 また、水陸画との関連を指摘されぬままに地方の文化財目録などに紹介されている作例がまだ多数存在するだろうという仮説に立って地方の文化財関連の図版も極力収集・検討した。こうした収集の過程で、岡崎市妙源寺本をはじめとする若干の水陸画残闕を新たに確認し得た。なお新確認の残闕のうち愛知県に存する作例については『愛知県史研究』第4号に掲載すべく論文を執筆中である。 なお、先年度は申請した予算額よりも減額されて補助金が支給された都合上、図書の購入や資料の収集の一部に支障をきたしたことが惜しまれる。この問題を本年度において解消できるよう予算の使用内訳を設備備品費(図書費)と国内旅費に重点化した。
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