研究課題について、今年度は星曼荼羅の中尊の性格を、代表的な作例の図像比較をもとに考察した。星曼荼羅の中尊は釈迦金輪であることが普通だが、河内長野市の金剛寺本のような大口金輪の作例や、堺市の宝積院本のような熾盛光仏と考えられる作例もあるため、中尊の図像表現の細部を検討するため、両者については赤外線撮影をおこなった。 すでに、松浦清「東寺宝菩提院旧蔵北斗曼荼羅について」(大阪市立博物館研究紀要第29冊、平成9年3月)で紹介した大阪市立博物館本の表装の解体修理に伴い、画絹裏の梵字墨書が発見されていたが、今年度はその解読を進めた。その梵字は、北斗畳茶羅を構成する中尊、九曜、北斗七星、十二宮、二十八宿の計57尊全てに記されており、それらは各尊格の種子と真言陀羅尼であることが判明した。特に格尊格の種子は梵字アーク(胎蔵界大日)とバン(金剛界大日)の並記を伴っており、上記の研究紀要でもその可能性を指摘した北斗曼荼羅における両部不二を文字の上で確認できる極めて重要な証拠を得たといえる。さらに格尊格の頭部には字輪観に用いられる空点を伴う梵字キャが記されており、このことは、中尊の体部が各種の真言陀羅尼で覆われていることと考え併せて、本北斗曼茶羅の制作には字輪観あるいは布字観が影響していることを思わせる。詳細は、松浦 清「東寺宝菩提院旧蔵北斗曼荼羅の画絹裏墨書と中尊について」(大阪市立博物館研究紀要第31冊、平成11年3月刊行予定)で報告する。
|