「ヒトの表情」の情報処理は認知系及び情動系双方のシステムの並列処理という点において、ヒトの情報処理のもつ複雑さ、巧妙さ、非合理さを特徴的に併せ持っている。本研究のねらいは、この2系統の情報処理システムの存在の実験的確認と特性の解明にある。「ヒトの表情」の情報処理に関与する「認知系システム」については、平成8年度に引き続き、ヒトによるヒトの表情のカテゴリー弁別を研究の主要テーマとした。基本6表情(幸福、驚き、恐れ、怒り、悲しみ、嫌悪)における時系列的変化と表情判断との関係を実験的に探り、表情認知過程における時間的特性を確認した。また、擬似的対人面接場面における表情認知とストレス反応との関連にも注目した。 上述の研究においていわば、「認知系システム」の側面はある程度明らかにされたが、さらに次のステップとして、表情刺激に対する感情的評価側面を司る「情動系システム」の過程とその両者の相互作用等を明らかにすべく、笑顔刺激と怒り顔刺激を瞬間提示し、その後に中立刺激を提示して好悪を評定させる感情プライミングのパラダイムを導入した実験を現在行っている。また、これらの表情判断時における被験者の生理反応の系統的変化をも合わせて記録し、分析を行っている。また、表情刺激の処理に関する大脳半球機能差を仮定し、表情刺激を右視野と左視野に分割提示することによって、両視野における評価、処理速度の差異等を分析し、表情判断に関与する情動系システムの特性解明を目的とする実験準備を平成10年度に向けて着実に準備中である。
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