研究概要 |
本研究では,ヒトとトリを対象に,発達初期の視覚経験が,他個体の認識に使用される形態認知にどのような影響を与えるか調べる実験研究を行った.他個体の認識に関しては,使われる形態に種差があるため,ヒトでは顔の形態,トリでは身体の運動情報を対象とした. ヒトを対象にした研究では,生後6ヶ月・8ヶ月の乳児を対象に,発達初期の視覚経験が顔の性別識別に与える影響に関する実験研究を行った.その結果,生後6ヶ月から8ヶ月までの2ヶ月間の視覚経験により,顔の男女の識別が可能となる過程を明らかにした. 発達初期の視覚経験を厳密に統制するため,トリを対象にした実験を行った.視覚経験を統制した生後24時間時のウズラ・ニワトリのヒナに対し,モニタ上に視覚刺激を呈示し学習させ,2時間後・24時間後に,学習した視覚刺激に対する好みのテストを行う.この方法を用い,生物が歩行する運動をドットパタンで表現するバイオロジカルモーション(生物的な運動)の認識に発達初期の視覚経験がどのように影響するかを調べた. 学習させた生物的な運動は,正常な生物的な運動として,自種の生物的な運動・近種の他種の生物的な運動・遠種の他種の生物的な運動,非生物的な運動として,生物的な運動の各ドットがランダムに動く運動・生物的な運動がそのままの形で上下逆さに動く運動・生物の形がそのままシフトして移動する運動などである.テストでは,自種の生物的な運動と学習した運動を対呈示し,この間の好みを計測した.その結果,非生物的な運動よりも生物的な運動の間で好みが混同しやすく,生物的な運動の種の違いを認識できないものの,非生物的な運動と生物的な運動の違いは認識できる可能性が示唆された.
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