研究概要 |
本研究は、鳥類の音声認識を対象として、認知的記憶の形成と保持、探索のメカニズムを行動レベル・神経解剖レベルで探ることを目的としている。9年度には、ジュウシマツの歌の記憶容量限界および想起の際の系列配置効果などの行動学的指標を確立した。また、解剖学レベルでの分析に至る準備のため、破壊実験も行った。 ジュウシマツのオスは個体ごとに異なる歌をうたう。20個体より録音した歌を恣意的に2つのカテゴリー(Go,Nogo)にわけ刺激として用いた。ジュウシマツの成鳥オス3羽、メス2羽、計5羽を被験体として用い、いっぽうのカテゴリの刺激が提示されたとにはキ-をつつき、他方の刺激が提示されたときには2秒間待つよう、オペラント弁別訓練を施した。正反応率が80%を超えたところで、あらたに一組の歌を加え、訓練を続けた。 このようにして、215セッションの訓練をつづけた結果、5羽すべての鳥で、累積学習曲線が飽和した。このときの記憶容量は、平均4組(8個体ぶんの歌を2つのカテゴリに分けて記憶)であった。この後、50日間の休止を挟んで、想起の実験を行った結果、系列位置効果が現れた個休が2羽あった。記憶容量・想起効率には、雌雄差がなかった。これらの被験体のうち、4羽について、歌の記憶をつかさどるとされている大脳部位、NCMを破壊した。手術後数週間後の想起テストでは、記憶容量が大きかった2個体では、学習された歌のカテゴリをすべて想起することはできなかった。 以上の結果から、ジュウシマツでは、約8個体ぶんの歌を記憶でき、さらに、歌記憶に関わることが示唆されていた大脳部位NCMは、歌の記憶のうち保持・形成・想起のいずれかのレベルにおいて機能を担うことが示唆された。10年度では、さらに破壊実験を続け、記憶機能のうちいずれかを担っているのかを明らかにしたい。
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