鳥類の音声記憶と関連する神経基盤については、遺伝子発現や単一神経応答を指標とした先行研究により、大脳の新線条体尾内側部(NCM)が責任部位であることが示唆されている。本研究は、鳥類の音声知覚に関わる認知的記憶の形成と保持、検索のメカニズムを行動レベル・神経解剖レベルで探り、とくにNCMと認知的記憶との関係を明らかにすることを目的として行われた。 具体的には、行動実験に用いやすく解剖学的な措置にも耐性の高いジュウシマツを被験体として用い、記憶測定のための行動実験の前後でこの部分を破壊し、行動の変容を測定することで認知的記憶の責任部位を明らかにしようと試みた。ジュウシマツのオスは個体ごとに異なる歌をうたう。多数の歌を恣意的に2つのカテゴリにわけ、オペラント条件付けをほどこしてジュウシマツの歌の記憶容量を測定した。この訓練の前後で、NCMと関連する神経構造に解剖学的な措置を与え、記憶の変容を測定した。 この結果、NCMを破壊することで記憶の想起・保持過程が相対的に障害されること、さらに、損傷の程度が十分大きいときには、記憶の形成にも影響することがわかった。このことで、NCMが聴覚記憶の責任部位であることは明らかになった。しかしながら、現段階では、NCMが記憶の想起と保持のどちらに関係するのかを分離することができていない。記憶の想起と保持とを行動指標のみで分離することは難しいが、平成11年度の研究の一環として心拍反応を指標とした記憶過程を測定することが可能になったので、さらに研究を発展させていく予定である。さらに将来は、NCMにより形成される記憶が鳥類の適応行動一般にどのよ・うに関わってくるのかを解明したい。
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