研究概要 |
昨年度の研究結果(Nakahara et al.,1999)で、内側前脳束の自己刺激行動によりコリン作動性神経の起始核でFos蛋白がよく発現することから、自己刺激行動にアセチルコリンが重要な役割を持つ可能性が示唆された。 本年度は、腹側被蓋野を起始核とするドーパミン神経(A10)の投射野でコリン作動性介在ニューロンを含む側坐核と同じくA10の投射野で前脳基底部を起始核とするコリン作動性神経の投射野でもある前頭前野におけるアセチルコリンと脳内自己刺激行動との関係を調べるために、行動薬理学実験および行動生化学実験を行った。 行動薬理学実験:自己刺激行動中にムスカリン受容体拮抗薬のアトロピンをマイクロダイアリシスプローブを介して側坐核および前頭前野に局所投与した結果、側坐核ではレバー押し頻度の有意な減少が見られたが、前頭前野では影響が認められなかった。 行動生化学実験:自己刺激行動に対する上記拮抗薬の部位特異的な効果がアセチルコリン細胞外濃度に反映されるかどうかをマイクロダイアリシス法を用いて調べた結果、前頭前野におけるアセチルコリンの細胞外濃度は、生理的条件下で基礎値が60.5±12.4 fmol/40μl (mean±SE)であり、1時間の自己刺激行動中に有意に上昇し、開始20-40分後に基礎値の約6.4倍に達した。一方、側坐核では、生理的条件下で安定した測定が出来なかったため、0.01 μMのeserineを灌流液に添加で測定した。この条件下の細胞外濃度は、96.7±23.4 fmol/40μl(mean±SE)であり、1時間の自己刺激行動中に有意に上昇し、開始40-60分後に約1.9倍に達した。 これらの実験から、側坐核のアセチルコリンは自己刺激行動の発現に直接関わるが、前頭前野のアセチルコリンはむしろ皮質の覚醒水準の変化を反映する(Inglis & Fibiger,1995)と考えられる。
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