研究概要 |
平成9年度は,行為の記憶実験に用いる記銘材料となる,行為文に関する基礎的研究を行った。行為の記憶について検討するパラダイムの1つにSPTs(被験者実演課題)があるが,記銘材料の特性と,記憶成績との関連が明らかにされていないからである。 研究に用いた行為文は全部で32文であり,身体部位のみを用いて行う簡単な行為を表したものであった(例:鼻をさすれ,腰をなでろ)。行為文は,8種類の動詞(さすれ,たたけ,指させ,なでろ,つかめ,かけ,つつけ)に,12種類の身体部位を組み合わせて作成した。その際に,各動詞は4回ずつ使用されたが,各部位は4回使用されるもの(鼻,ほお,ひざ,あご)と2回使用されるもの(おでこ,腰,肩,耳,まゆ毛,腕,頭,首)とができた。実験の目的は,行為文に含まれる身体部位の実験中での出現頻度と再生記憶との関係について検討することと,各行為文の熟知価,学習容易性,イメージ価といった特性と再生記憶との関係についての検討であった。実験は,被験者にまず,行為文32に対し,熟知価,学習容易性,イメージ価のいずれかを評定させ,その後に偶発の自由再生を施行するという手順で進められた。 実験の結果,実験中に出現する身体部位の頻度は,熟知価,学習容易性,イメージ価などの特性の評定には無関係であり,また,後の記憶成績とも有意な関連は見られなかった。また,学習容易性が高く評定された行為文は,容易性が低い文に比べ,有意によく再生されていたが,イメージ価の高低の影響は有意傾向止まりであり,熟知価の高低は再生成績と有意な関係が見られなかった。ただし,これは行為内容を言語的に記銘した場合の結果であり,来年度は,これらの行為を実際に実演することが,行為文の特性の記憶に対してどのように影響するのかを,記憶の意識性という観点を含め,引き続き検討する。
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