1.研究背景 申請者のこれまでの研究から、単純な運動を行う場合(以下では単一型運動反応)と複雑な運動を行う場合(以下では複合型運動反応)とを被験者に行わせた場合、単一型運動反応の方が複合型運動反応よりも反応がおそいことがわかっている。この結果は、これまでの運動プログラミング理論ではまったく説明ができない。刺激を知覚してから反応するまでのどの部分で運動の違いが生じているのかまったくわかっていない。 2.目的 単一型運動反応と複合型運動反応の違いが、刺激を知覚してから反応するまでのどの部分で差が生じるのか実験的に検討する。 3.方法 単一型運動反応と複合型運動反応を組み合わせた選択反応時間課題をおこなっているときの脳波(事象関連電位)、筋電位、反応時間を測定する。 4.結果と考察 筋電位の潜時と反応時間において、従来の知見どおり、単一型運動反応の方が複合型運動反応よりも長かった。しかし刺激提示をトリガーとした脳波の加算平均波形から推定した事象関連電位のP300成分のピーク潜時には単一型運動反応と複合型運動反応の違いはなかった。P300は刺激の認知に関連すると言われているので、以上の結果から、単一型運動反応と複合型運動反応の違いは、刺激を認知してから出力器(本研究の場合は指)に運動指令を出すまでの間に発生していることが推定できた。脳波信号については、さらにウェーブレット変換を用いた単一P300の推定もおこなった。
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