研究概要 |
本年度は、(1)音声の分析合成のための計算機環境の整備、(2)音声分析合成手法の習得、(3)調波複合音と合成音声の高さの弁別閾測定を行い、さらに、(4)高さが明確でかつ音声としての明瞭性も高い刺激を作成して、数詞音声の高さの明確さが干渉効果に影響するのかどうかを検証する心理実験を行った。刺激として、(1)調波複合音、(2)男性話者による数詞の自然音声、(3)自然音声を分析後、分析パラメータを保持して再合成した合成音声I、(4)同様の分析を行った後、音声区間の基本周波数を調波複合音と同じ定常な周波数に固定して合成した合成音声IIを用いた。調波複合音と合成音声I,IIについて高さの弁別閾を測定した。また、4種の刺激を調波複合音の標準音と比較音の間に挿入し、標準音の高さの再認誤り率および挿入された数詞系列の再生誤り率を測定した。その結果、(1)音声の高さを定常にすれば高さの弁別閾が小さくなり、高さが明確になること、(2)音声刺激に対する分析合成、および基本周波数の操作は、音声としての明瞭性にまったく影響を与えなかったこと、(3)高さが明確でかつ音声としての明瞭性も高い刺激は、調波複合音の高さの記憶に大きな干渉効果を及ぼすこと、(4)数詞系列の再生課題を加えると高さの再認誤りが有意に増加すること、などが明らかになった。したがって、高さの再認に対する自然音声の干渉効果が小さいのは高さの不明確さによるものであり、音声と非音声の記憶が特殊化されているためではないと考えられる。
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