本研究では、わが国に心理学を導入・展開した主要人物7名(元良勇次郎、松本亦太郎、桑田芳蔵、野上俊夫、千葉胤成、田中寛一、久保良英)について、戦前期までに学術誌に発表された論文や著書の網羅的なリストを作成した。リストの作成にあたっては、"心理研究""心理学研究"などの心理学関連資料だけではなく、"教育問題目次集成""文献選集教育と保護の心理学"などを利用して広く関連分野の学術誌に目を配った。これらの人物に関する写真、手紙やノートといった一次資料についても収集を行った。特に、彼らが留学した際の手記や海外心理学者と交渉した手紙などを入手でき、留学時の知識摂取について理解を深められたことは心理学史的に意義が大きかった。 調査の結果、これらの人物がいずれも教育・社会分野において啓蒙的論文、専門的論文を執筆していることが明らかとなった。また、予定には無かったことであるが、元良勇次郎が障害児教育用に作成した注意練習機を翻刻することで当時の研究水準の理解を深めた。 作成したリストや一次資料に基づき、これらの7名が行った教育・社会系心理学的研究について総合的に考察し、彼らが扱ってきた社会的教育的問題の特徴や心理学的アプローチの特徴・限界について整理を行った。特に、7名の業績を軸に戦前期までの心理学史を理解するための基礎的枠組みを提示するため、最近の科学社会学の議論である「モード論」について理論的検討を行い、わが国の心理学が社会との接点を求めて行った研究や活動の意義について理論的に整理・位置を行った。 本研究で入手した資料や文献リストについては「心理学史インターネット博物館」としてホームページのウェブサイトで公開した。
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