本研究は、幼児期から児童期にかけての、自己および他者についての日常的な理解の構造、また人の心的世界やパーソナリティに関する素朴理論の発達的推移を精緻に検討することを目的として企図されたものである。今年度(平成9年度)は、保育園5歳児クラス(32名)、小学校2年生(37名)、4年生(35名)、計104名を対象に自己評価、自己定義、自己の関心等についての質問からなる自己理解インタビューを実施した。その結果、まず第1に、加齢に伴い、自分自身の身体的・外的属性に関する描出が減少し、それとは逆に自らの行動および人格的特性に関する描出が増加することが明らかになった。詳細に検討すると、自らの行動に関する描出においては、加齢に伴い、特に、自分自身の勤勉性や能力に関する言及が増えることが示された。また、人格的特性に関する描出においては、「いい子」「わるい子」といった総合的・全般的評価語の使用にあまり変化は見られないものの、特に自分と他者の協調的関係性に関わる言及に増加傾向が見られることが示唆された。第2に自分自身に対する評価の発達的変化について検討したところ、幼児では自らの肯定的側面(好きなところ・いいところ)のみを描出する者が相対的に多いのに対し、加齢に伴い、肯定的側面のみならず、自らの否定的側面(嫌いなところ・わるいところ)も織り交ぜて自己描出し得る子どもの割合が大きくなることが明らかになった。さらに、保育園児および小学校2年生では、自分自身のどのようなところが好きか嫌いかという質問と、どのようなところがいいかわるいかという質問に、きわめて近似した回答を示す子どもが一般的であるのに対し、小学校4年生になると、これら2種の質問に別種の反応を示す子どもが多くなり、「好き-嫌い」という次元と「いい-わるい」という次元を分けて、自己をより多次元的に評価する傾向が強まることが窺えた。
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