研究概要 |
他者への積極的働きかけである自己呈示が,他者にではなく呈示者自身にどのような影響を与えるかを検討するために実験を行った.独立変数として面接状況での自己呈示(高揚的vs抑制的)と想定させる呈示の観察者(人事担当vs同輩-他者vs同輩-友人)を,従属変数として能力関連感情・対人不安感情・評価懸念を取り上げ検討した.被験者には有効な就職面接態度を調べる研究である告げ,半数の被験者には高揚的呈示をするように,残りの半数の被験者には抑制的呈示をするように教示した.別室で10分程度の面接を行いビデオでその様子を撮影した.次に呈示観察者の操作として,人事担当群では就職課と人事担当者に撮影したビデオを見せたら,同輩-他者群では心理学科の3年生に見せたら,同輩-友人群ではあなたの友人に見せたら,どのような印象を持たれるかを想定させ評定させた.最後に従属変数として,能力関連感情,対人不安感情,評価懸念などを測定した.結果として,評価懸念では,同輩-他者群では両方の呈示で,人事担当群では抑制的呈示をした場合,高かった.自己呈示の内容と直接関連している能力関連感情では,同輩-友人群では,高揚的呈示をすると抑制的呈示に比べ能力関連感情が高くなっていたが,他の2群では差は見られなかった.つまり,同輩-友人群では,自己呈示の方向に感情が変化しており,自己呈示の内在化が進んだと考えられる.対人不安関連感情では各群の間には差が見られなかったが,一般的なポジティブ感情では,同輩-友人群では,自己抑制的呈示をした場合,自己高揚的呈示をした場合に比べて,ポジティブ感情が高かった.これは,能力関連感情とは逆の結果である.本研究の結果は,同様の自己呈示をした場合でも,受け手として想定させる人物が異なれば,異なった感情が生じ,自己呈示の内在化において異なった効果を持ちうることを示すものと言えよう.
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