集団レベルの援助行動や問題解決行動意図について、集団間比較に基づく社会的同一視理論と、原因帰属理論を枠組とする研究を行った。データ収集においては仮想世界ゲームを実施し、ゲーム間で発生した問題についての責任帰属と、集団間関係の認知や集団への同一視との関係を検討した。その結果、内集団への同一視が強いほど、内集団の問題発生責任を過小評価すること、また、外集団の発生責任を高く評価するほ非難や解決行動への期待が高まることが示された。ただし、責任帰属と援助行動との関係は、過去の研究の知見とは一致しない結果が見られた。すなわち、内集団外集団を含む包括的集団(世界全体)への同一視が高い場合には、外集団に問題発生の責任を帰属し、非難や怒りが高いにもかかわらず、援助意図が高いという結果が見られた。このような結果は、集団間援助行動では「発生責任帰属→同情→援助行動」という感情を媒介とした帰属モデルでは解釈不可能であり、発生責任の帰属だけでなく解決責任の認知と援助行動との関係を検討する必要を示唆している。また、包括的集団への同一視の高さが、必ずしも従来の研究で議論されてきたように外集団と内集団とカテゴリー境界の希薄化に由来するのではなく、外集団を「自分達とは別の集団」と捉えながら、「内集団カテゴリーの延長としての世界全体」という表象が形成されているために、「内集団に利益をもたらす行動」として問題解決のための援助行動が位置づけられている可能性がある。従って次年度以降の研究では、内集団と包括的集団への同一視の概念、およびその操作的定義を明確にした上で、帰属モデルが提唱する「責任帰属から発生する同情」に基づく援助意図と、内集団への利益への期待に基づく援助意図とを分離して集団間援助行動を議論する必要があろう。
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