研究概要 |
本研究は、阪神・淡路大震災以後、急速に社会的認知を獲得しつつある「ボランティア」について、それがいかなる意味を帯びた営みとして社会的に構成され、日本社会に定着しつつあるのかについて、社会的構成主義、社会的表象理論の立場から検討しようとするものである。 本年度は、第1に、社会的構成主義、社会的表象理論に関する理論的・方法論的検討を行なった。具体的には、社会的構成主義については、その代表的論者であるK.Gergenの著書「Toward Translation in Social Knowledge」について検討し、その成果の一部を訳書「もう一つの社会心理学:社会行動学の転換へ向けて」(杉万・矢守・渥美,1997)として刊行した。さらに、社会的表象理論については、主唱者の一人であるW.Wagnerが主宰するゼミナールに研究代表者自らが参加し、最近の理論的動向(とくに、社会的表象理論と従来型の認知社会心理学との接点と差異)について検討した。第2に、近年のボランティア現象の実相を把握するための基礎的な調査を実施した。具体的には、(1)阪神大震災時における既成組織(一般企業、半官半民の団体、大手NGO団体など)のボランティア活動に関する聞き取り調査を行ない、日本社会におけるボランティアのあり方を、5つのタイプに類型化して整理した(八ッ塚・矢守,1997)。(2)各種のボランティア活動記録の網羅的整理・検討を通して、日本社会における「ボランティア」は、理念主導の欧米型の「volunteer」とは異なり、震災によって、(一時的に)崩壊した近代科学技術、近代的社会システムに対する信頼の回復・再生過程に現れた一種の社会的技術であることを指摘した(矢守,1998(印刷中))。
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