軽度抑鬱者が示すネガティブな経験の般化に貢献する認知過程として、ネガティブな事象に対する内的安定的な帰属の傾向があるとされるが、これまでのところ、なぜそのような帰属が生じるのかというメカニズムは明らかにされていない。本研究では、そのメカニズムとしてヒューリスティックな処理による可能性と過剰な情報処理による可能性の両者を検討した。 本年度は、まず、これまでの先行研究の整理をおこない、実験方法-特に測定方法-の検討を行った。これまで帰属質問紙を用いて抑鬱傾向と帰属スタイルの関係を見る研究は多く行われてきたが、その際に被験者がどのような思考方法を採らせるか教示していなかった。そのために質問紙で得られた帰属スタイルがヒューリスティックな処理によって生じたものか、過剰な情報処理によって生じたものか特定できなかった。そこで、被験者に出来事を示し、そのような出来事が自分に起こるとしたらどのような理由によるのかを答えさせる際に、(1)特に教示をしない(2)できるだけ早く理由を考えるように教示(3)1分間理由を考え続けるように教示 という3つの条件を設け、被験者が回答する理由を検討した。本実験の目的は、基礎的なデータの収集でもあるため、被験者には思いついたことをすべて口頭で回答させ、それを録音した。出来事は対人的なポジティブな出来事、対人的なネガティブな出来事、達成的なポジティブな出来事、達成的なネガティブな出来事、各15計60からなり、ランダムに被験者に呈示された。被験者の回答を出来事の種類、思考形態の教示条件ごとに整理し、抑鬱傾向と併せて検討したが、個人差が大きいことから予測したような思考法による明確な違いは見いだされなかった。測定方法を再考する必要性があると考えられる。また仮想場面によらない実験も実施する必要がある。
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