本研究の目的は、高いレベルでの談話産生能力に認知能力はどのように関わるかを検討することにある。今年度は、使用する談話課題の検討と認知面をみる、神経心理学的検査の検討を行った。談話課題の検討については、健常者を対象にいくつかの談話課題を施行した結果から、比較的まとまった量の発話が得られ、かつ、話者による情報の構造化をみることのできる課題として、1.一枚の絵についての叙述課題(物語)、および2テーマを与えられて話す課題(手続き)、3.短いビデオ番組の説明課題(物語及び手続き)が適当と考えられた。情報構造の点から見ると、健常者の場合、3.短いテレビ番組の説明課題は比較的容易で、ばらつきにくい傾向があったが、本研究の対象者は軽度失語症患者であるため、こうした課題を含めた方が床効果を防げると考えられた。そこで、1および2について各1題ずつ、3については物語と手続きを各1題づつ、計4題の課題を施行することとした。認知能力をみる神経心理学的検査については、認知能力のなかでもexecutive function (遂行機能)に関わるものとして、Wilsonら(1996)の開発した検査バッテリ-、The Behavioural Assessment of the Dysexecutive Syndrome(BADS)について検討を行った。これは、遂行機能の定量的評価を包括的に行う検査であり、現在、日本語版の開発中である。 来年度は4つの談話課題とBADSを軽度失語症患者10名に施行し、情報量の側面と情報構造の側面から分析を行い、BADSの結果とあわせて検討する。なお、情報量の分析については、Nicholas & Brookshire(1993)の手法が日本語においても使用できることが、健常者を対象とした談話の分析により確認された。
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