重度・重複障害児は、その運動・認知・言語・社会性のすべての領域において著しい発達の遅れがみられる。障害の重い子どもを対象とする指導が成立するためには、子どもと指導者との意思のやりとり(対人的相互交渉)が基盤となり、言葉やシンボルでなく、非言語的なやりとりが中心とならざるを得ない。その際に、表情や発声が媒体のひとつである言語的なやりとりが中心とならざるを得ない。その際に、表情や発声が媒体の一つであるが、わずかな視線や身体の動きも子どもの気持ちを示すものとして重要である。一方、。非言語的な母子相互交渉に関する発達研究では、相互同時的な行動である間協応動作や共同注視が相互交渉を構成する重要な要素であることが明らかとされてきた。 そこで、重度・重複障害児の指導場面における子どもと教師の非言語的な相互交渉を、1)行動生起のパターン、2)子どもの注視方向、3)子どもの注意対象の項目で分析した。相互交渉場面として、食事場面(完全介助)を取り上げ、3名の重度・重複障害児に対して、介助者としての指導者と母親による食事介助の画像記録を行った。画像記録から、子どもと介助者両者に生起した行動(動き、発声、表情)のリストを作成した。1)子どもの注視方向、2)子どもの注意対象、3)介助者の注視方向、4)解除者の注意対象を特定するための評価基準を作成した。 子どもの障害の状態や発達の段階で、相互交渉のスキルについて個人差が大きく、また視覚、聴覚情報の活用、発語のあるなしで、相互交渉の仕方は大きく異なった。視覚的注意については、眼球の動きや視線を手がかりに評価することが可能であったが、聴覚的、また身体感覚的な注意の評価が困難であった。これらの点を評価するためには、介助者と子どもの行動を継続的に分析し、さらにそこで生じる情動的な変化も併せて、評価する必要が示された。その点からは、評価リストの内容を再検討する必要が示された。
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