研究概要 |
本研究の目的は,知的障害者の身体バランス機能とcoordination(協調性)との関連を調べて,その支援の方法を検討することである.本年度に行った研究は次の2点である。(1)知的障害者の身体バランス機能を検討するために,13〜22歳の中度・重度の知的障害者42名に対して,約25秒間の身体動揺の測定(開眼条件)を行った.身体動揺とは立位時に生じている身体の微細な揺らぎのことであり,これが大きいとバランス機能が低下していると解釈されている.その結果,知的障害者の身体バランス機能は,健常児と同様に年齢とともに発達してゆく傾向があること,ルリヤのいう行動調整能力のような心理的側面が関与していること,臨床型として自閉症群は他の知的障害者よりも動揺量が大きく,一方ダウン症群は動揺量が小さいことなどが明らかになった(発達障害学研究(1997)に掲載済み).(2)知的障害者のバランス運動時における上肢と下肢のcoordination機能の特徴を予備的に検討するために,19〜22歳の中度・重度の知的障害者10名に対して,約20秒間その場足踏み運動の測定(開眼条件)を行い,そのときの頭部動揺量を調べた.その結果,精神年齢のような心理的側面がcoordination機能に関与していること,ダウン症者のcoordination機能が他の知的障害者よりも概して低いことなどが示唆された(Perceptual and Motor Skills(1997)に掲載済み).今後は,知的障害者のバランス運動時のcoordination機能の実態を更に詳しく分析していくとともに,その支援の方略を考案することが課題である.なお,補助金は補助条件に従って研究遂行に有効に使用され,購入した設備備品のA/Dコンバータはcoordinationの分析に十分利用された.
|