ネオ・リベラリズム的政策によって、デュアリズム的経済体調の構築はなされ、現在でも続いているのであろうか。本研究の目的は、移民に関わるデュアリズムの有無を、戦後英国を対象とし、エスニッグ階層という研究視角で明らかにすることである。今年度は、住宅階層および移民の職業選好に注目して研究を行った。 英国に戦後入国した移民で重要な人々には、カリブ系、インド系、東アフリカ・アジア系、パキスタン系、バングラデシュ系が存在する。 住宅市場においてはカリブ系とバングラデシュ系は労働市場におけるエスニック階届的位置を反映しており、恵まれた住宅に居住してはいない。パキスタン系は住宅アメニティ的には「下層」よりも少々よい程度だったけれども、持ち家率の点では高かった。インド系や東アフリ力・アジア系については、労働市場における位置を反映した位置づけであった。 職業選好に注目すると、2つの階層上昇移動の経路が移民たちに想定されていた。1つは自営業であり、もう1つは人的資本を職業の獲得機会として追求するやり方である.労働市場におけるエスニック階層を捉え直すと、南アジア系の自営業への集中は彼らの選好に沿っていると判断したくなった。しかし、むしろ人的資本志向がありながらも、「人種差別」や家庭環境等の障害ゆえに追求できず、自営業経路を選択せざるをえなかったという解釈が成立するのである。 移民労働力というネオ・リベラリズム的政策は、一時期までエスニック・デュアリズムを英国内に形成していた。このように、単純マニュアル労働者に代表されるような古典的なエスニック・デュアリズムは1990年代の英国においては消失している。しかし、住宅市場におけるエスニック階眉および移民の職業選好を見ると、まだデュアリズム的な要素は残存していると言わざるをえない。
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