宮城県鹿島台町と愛知県安城市を対象として次の研究を進めた。1.鹿島台町山船越地区に所在する農業生産組織の展開過程について、関係諸資料を収集し生産組織のリーダー層に聞き取り調査をおこなった。また、同地区に居住する農家構成員の就労歴について聞き取りを進めた。2.安城市の高棚町と和泉町に所在する農業生産組織の概況ならびに展開過程について、関係諸資料を収集し生産組織のリーダー層に聞き取り調査をおこなった。 以上の研究を通じて以下の知見が得られた。1.それぞれの地区によって状況は異なるものの、生産組織のあり方としては、全面協業組織よりも大規模借地型の生産組織の方がより優位であることが判明した。2.生産組織への後継者の新規就労がスムーズにいかなくなっており、生産組織が中高齢者の就労の場へと性格変化をとげつつあるケースもあることが明らかとなった。3.地区によっては、生産組織に加入せず農業の個別経営を維持している農家の方が、農家それ自体として相対的に安定しているケースのあることが判明した。そうした個別経営農家では、世帯主世代が主として農業に従事し、後継者世代が農業以外の職につきながら自家農業に参加しているケースが多い。稲作専業よりも、こうした多就労体制に基づく稲作兼業によって、農家の存立が確保されている面のあることが明らかとなった。4.農家構成員の就労歴を中心とした生活史を聞き取るなかで、こんにちに至るまでの歴史的な稲作兼業の深化の過程が判明しつつある。 今後は、地区内に居住する農家構成員一人ひとりの就労歴を中心とした生活史分析を引き続き進めていく。そのさい、農家の基幹労働力の担い手のみならず、その親世代と後継者世代も含めて三世代の生活史を追跡したい。とくに農業生産組織のリーダー層の生活史分析を重視し、リーダー層の農業観、農家観、農村観の把握を目指す。
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