先行研究において、男女間の会話に権力現象が生起することが明らかにされている。そして、その権力は通常の権力とは異なり、権力を行使するものにも権力を行使されるものにもその存在が自覚されないような権力である。また、青少年の男女の性に関する全国調査からも、男女間で性的行動への働きかけについて非対称的な関係が存在することが明らかにされている。つまり、性行動においてリーダーシップをとるのは常に男である。しかし、このような性による権力がどのようなメカニズムによって発生するかについて、これまで理論的な分析はなされてこなかった。 そこで本年度は、このような権力現象が発生するメカニズムを進化ゲーム理論の方法を用いて特定化することを試みた。その結果、男女間の権力関係がどのようにして形成されたのかを明らかにすることができた。そのような権力は、男女間の自由な相互行為を通じて形成され得るものであった。 数理的な分析によって「権力が発生するメカニズム」を特定化することに成功したことは、ある特定の権力現象が生成される過程を明らかにしただけではなく、権力と自由の相補的な関係を理論的な水準で明らかにできたことをも意味する。つまり、通常は権力は行為者の自由を制約することで発生すると考えられているけれども、場合によっては行為者の自由な相互行為こそが権力を産出する。したがって、権力を行使するものや権力関係を社会的に(あるいは制度的に)排除することでは、望ましくない権力を完全に消し去ることができない。本プロジェクトは、このことを論証することができた。
|