本研究は九州の過疎指定地域における高齢者福祉の問題状況を類型的に探るととともに、過疎地域における地域福祉システムのあり方を考察することを目的としている。今年度は、既存の統計資料から九州の過疎地域における人口動態や高齢化の状況・社会基盤等についての統計的・類型的整理を行った。過疎地域の指定条件には、人口減少率と高齢化率・財政力指数が含まれ、九州では全市町村の過半数が過疎地域の指定を受けている。これらの地域を中山間・農村地域、離島地域、旧産炭地域に区分して、それぞれの地域が抱える福祉課題の現況に関する統計的把握を試みた。いずれの地域においても、高齢者福祉を支えるマンパワーの確保が大きな問題となっており、住民の組織化も含めた社会的資源の開発が急務であることが明らかとなった。その上で、過疎地域の中でも離島を多く抱える長崎県において、注目すべき地域福祉システムを核とする町づくりの取り組みについて具体的に実地での聞き取り・資料収集を行った。それらをふまえて、地域住民を対象にした高齢者福祉と町づくりに関するアンケート調査のための調査票を作成し、予備的に長崎県西彼杵郡崎戸町において、高齢者を対象にアンケートを実施した。現在、アンケートの結果は一次分析が終了し、離島地域に住む高齢者の社会的ネットワーク・福祉意識・福祉サービスの認知と利用・福祉のまちづくりに対する意識が明らかになっている。旧産炭地として人口の大きな流動を経験している当該地域は、高齢者の社会的ネットワーク・地域意識の面においてきわめて都市的な側面をもっており、従来、過疎地域研究で用いられた農村類型を超えた新たな地域社会分析の枠組みの必要性が明らかとなった。今後の課題として、都市社会学における高齢者福祉研究の知見も取り入れた形でのアンケート調査結果の詳細な分析が必要である。
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